マイクロRNAその1

NHKサイエンスゼロ  2015/2/22放送
「がんも!老化も!? 生命を操る マイクロRNA」

からの掲載です。

ナビケーター:南沢 奈央・竹内 薫
アナウンサー:江崎 史恵

最近注目のマイクロRNAについてです。

血液検査によるがんの早期発見、そして、近い将来がん治療にも。

去年糖尿病治療で、論文が発表されています。
【糖尿病のマウスに遺伝子の働きを抑える「マイクロRNA」という分子を注射して血糖値を下げることに東北大のチームが成功した。
血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓の細胞が再生されたという。
糖尿病の新たな治療法につながる可能性がある。】

VTR

2014年8月がんの早期診断方法を新たに開発する国家プロジェクトが始まりました。
これが成功すれば血液を一滴調べるだけで13種類の癌が極めて初期の段階でも診断できるようになるというのです。
プロジェクトの鍵を握るのは、国立がん研究センターに保管された70万にも及ぶ癌患者の血液です。
そこからがんの初期段階でも変化がが現れるというある物質を見つけ出そうというのです。

その物質とは、

癌になると血液中に増えてくる、マイクロRNA

マイクロRNAというのは小さなRNAの一種で
実は最近、このマイクロRNAが生命活動の維持にとって
とても重要な調整役をしていることがわかってきたのです。

生命の設計図DNAから転写されるRNA中でもとっても小さなマイクロRNAが重要だというのです。

生命を裏から操り癌の早期診断にも役立つというマイクロRNAに迫ります。

STUDIO

奈央:
マイクロRNA初めて聞きました私。

竹内:
ですよね、注目されてからまだ10年ちょっとなんで知らなくて当然です。
ただ、今、生命科学でとってもホットな分野なんです。
しかも血液中にあるマイクロRNAを調べると癌の早期診断もできるということなんですね。
もし、これがほんとうにできたら画期的ですよね。

奈央:
マイクロというのはすごく小さいということですよね、RNAというのはなんでしたっけ。

竹内:
DNAは知ってますよね。

奈央:
はい、細胞の中にあるタンパク質の設計図ですよね。

竹内:
RNAはDNAの仲間なんです。
DNAはデオキシリボ核酸
RNAはリボ核酸

江崎:
そもそもRNAとはどのようなものなんでしょうか。
後ろに並んでいるのはDNAなんです。
DNAはタンパク質の設計図なんですが、ここから直接タンパク質が作られるわけではないのです。
この情報をいったんRNAにコピーするんです。
では、どのようにコピーされるのかと言いますと
この、DNAをじっくり見てください
四色ありますよね
これ塩基と言いまして
四種類あるんです。
DNAがほどけますと
RNAがやってきます

奈央:
ほおー、繋がっていきますね

江崎:
そうなんです、DNAの並びにそってこの様に繋がっていきます。
では、どうやって並びにそって繋がっていくのかと言いますと、
DNAとRNAの塩基は繋がる相手というのが完全に決まっているんです。
RNAの塩基も四種類、DNAの塩基も四種類、
今回は繋がる相手の色を似たような色として表しているんですね、
例えば緑には青、DNAの赤にはRNAの黄色といったぐあいですね、
同じ色どうしはくっつきません。
こういった法則がありますので、
DNAの塩基の並び方の情報がしっかりとRNAにコピーされるということなのです。

奈央:
なるほど

江崎:
このコピーされたものはメッセンジャーRNAと言います。
そして、塩基が数千くらい繋がっているんです。
そのメッセンジャーRNAからの情報を読み取ることで
この様にですね、この白いのがタンパク質なんですけど
タンパク質が作られていくわけです。

奈央:
これがRNAの役割なんですね。

竹内:
さあ、ここで恒例の奈央ちゃんに質問です。
DNAの中でRNAにコピーされるのは何%ぐらいでしょうか。

奈央:
ええ、ちょっと想像もつかないですね

竹内:
言い換えるとDNAの中でタンパク質の設計図になっている部分は何%でしょうか。

奈央:
難しいですね

竹内:
ヒントを出しましょうか、大腸菌の場合だと86%です

奈央:
へえー、じゃあ近いんじゃないですかね。
8割ぐらい80%

竹内:
ブブー
答えです、1.4%

奈央:
ええー、少ないですね
じゃー、他の部分は何をしてるんですか。

江崎:
他の部分もRNAにコピーされるんですけどちょっと役割が違うんです。

DNAの中でもタンパク質の設計図にならない部分からコピーされたRNAです。
このRNAは22塩基くらいにまで短く切り刻まれるんですね、
奈央さんこの小さなRNAが本日の主役、マイクロRNAです。

奈央:
これが今日の主役なんですね、だけどメッセンジャ―RNAに比べてだいぶ短いですよね。
これは何をしてるんですか。

江崎:
マイクロRNAは働くときにメッセンジャーRNAにくっつきます。

奈央:
ほー、ぴったりくっつきましたね。

江崎:
はい、くっつかれたRNAはタンパク質を作ることができなくなります。
つまりメッセンジャーRNAの働きを止める役割なんですねえ。

奈央:
こんな短いのがくっつくだけで。

江崎:
そうなんです
この様にしてマイクロRNAは体の中でいろいろ作用してるんですね。
どのようなことが起きるのか見てみましょう。

VTR

東京大学 分子細胞生物学研究所
RNA機能研究分野
泊 幸秀 教授

体の中でマイクロRNAがどのような働きをしているかを調べていいる、
東京大学の泊幸秀さんの研究グループです。

受精卵が成長するときマイクロRNAが重要な働きをしているというのでゼブラフィシュでの実験を見せてもらいました。
ゼブラフィシュは受精後2日ぐらいまで体が透き通っています。
体の中の器官がよく見えるため活性の実験でよく使われています。
これは正常なゼブラフィシュの受精卵、この部分は栄養などなどが入った卵黄
魚類では画面上の部分が細胞分裂していきます
その様子をよく見てみると細胞は分裂を繰り返し。受精から4時間を過ぎると卵黄を取り囲み始めます。
そして30時間ほどでこのような魚の形になるのです。
この様な成長にマイクロRNAはどんな役割を果たしているのか、
ある、1種類のマイクロRNAの働きを止める物質を受精卵に注入して調べました。
受精から30時間後、右が働きを止めたもの尾が曲がってしまっています。
この部分が心臓、左は強く鼓動していますが右の鼓動は弱くなっています。
マイクロRNAを1種類止めただけで正常な発生ができなくなるのです。

今回の実験ではマイクロRNAの430番というものを阻害しました。
このマイクロRNAは母親由来のメッセンジャーRNAからタンパク質が作られるのを邪魔する働きを持っています。

どういうことかというと
ゼブラフィシュの受精卵では、まず最初は母親が残したメッセンジャーRNAからタンパク質を作ります。
このタンパク質が細胞分裂を促すのです。
受精から2時間半後子供の遺伝子が働く時期がやってきます。
この後は母親由来のタンパク質が邪魔になります。
そこで子供が作り出すのがマイクロRNAの430番です。
430番は、母親由来のタンパク質にくっつき、母親由来のタンパク質が作られないようにするのです。
こうして子供本来のタンパク質だけを使うことで正常に発達します。
しかし430番を止めてしまうと、母親由来の余計なタンパク質が作られ続けてしまいます。
そのため本来働くはずの子供のタンパク質が邪魔されてしまうと考えられています。
成長がうまく進まないのはこのためです。
マイクロRNAは発達の主役が母親から子供にバトンタッチされるを制御していたのです。

STUDIO

奈央:
へー、お母さん由来のメッセンジャーRNAをマイクロRNAがぴったりくっついて止めることで成長がちゃんとできるようになっていたのですね。

竹内:
そうなんですね、さらに面白いことは、マイクロRNA430はお母さん由来の数百種類のメッセンジャーRNAを止めることができるんですよ。

奈央:
えー、1種類のマイクロRNAだけで、そんなたくさんのメッセンジャーRNAを止めることができるんですか。

竹内:
そうなんですよ。

江崎:
こちらがマイクロRNA430の塩基配列です。
そしてこちらがお母さん由来のメッセンジャーRNAです。
沢山ある中の4つです。
ここにマイクロRNA430がこのようにくっついてタンパク質が作られないようしているんです。

竹内:
奈央ちゃんこれ、なんか気づきませんか。

奈央:
いや、ところどころくっついてないですよね。

竹内:
はいはい、くっついている部分とくっついてない部分がありますよね。
実はマイクロRNAは、一部分しかくっつかなくてもタンパク質が作られるのを止めたりできるんですよ。
だから数百種類を相手にできると。
だから複雑に生命を操ることができるんですね。

江崎:
その仕組みなどについて専門家に伺いましょう。

国立がん研究センター研究所
分子細胞治療研究分野長
落谷 孝弘さんです

奈央:
あんなに小さなマイクロRNAがいろんなタンパク質を作れなくしてしまうってすごいですね。

落谷:
そうですね実はこの発見に一番驚いたのは、私たち研究者かもしれません。
メッセンジャーRNAというのはDNAを確実にタンパク質にするための中間体だと思われてきました。
したがって中間体そのものには機能はないと考えられていましたけれども、実はマイクロRNAのような機能を持っているRNAが、実は我々にとってDNAやタンパクと同様にですね、とても重要な機能を持っていることが非常に大きなな発見なんです。

奈央:
ちなみに、さっきのはマイクロRNA430でしたけれど430というのは種類の数。

落谷:
そうなんですね、我々人では2500種類以上のマイクロRNAが見つかっているんですね。

奈央:
そんなにあるんですか、しかも1種類でいろんなタンパク質に作用するんですよね。

落谷:
そうですね。
1つのマイクロRNAが先ほど出たように、何百、時には1000を超える遺伝子を制御するといわれています。
先ほど例にあったゼブラフィシュのマイクロRNA430というものは少し特殊で、相手を完全に抑えるわけですけれども、一般的なマイクロRNAはおそらく相手をおそらく20%程度しか抑えることしかできません。
でもマイクロRNAの働きがたくさんの相手に及ぶため、こういったすごくおおきな働きがでるんですね。

奈央:
そんな複雑なんですね。

竹内:
そうしますと、その数ですね、
人と違う生物では違ってくるんですか。

落谷:
そうですね、いわゆる、ショウジョバエというものは人のゲノムの半分といわれていますけれども、マイクロRNAに比較すると人はショウジョバエの5倍ほどのマイクロRNAを持っているんですね。

奈央:
へえー

竹内:
5倍と言いうことは人間の方が機能がたくさんあるっていうことなんですか。

落谷:
そうですね、マイクロRNAの数が多ければそれだけ調節をする複雑さが増してきます。
より高度な、いろんな生理的な調節がマイクロRNAによって達成されている。
ですから、われわれ人間はいろんな別の生物に比べて、マイクロRNAによって進化している、そのように言っても過言ではないと思います。

奈央:
このマイクロRNAっていうのは体のどこにあるんですか。

落谷:
一般的には細胞の中に存在しています。
でも、細胞の外、我々の血液にも存在してるんですね。

奈央:
へー、細胞の外にもあるんですね。

落谷:
そうですね、このマイクロRNAは我々のあらゆる生命活動の局面で使われている、そういったものなのです。
実は、細胞同士コミュニケーションしています。
細胞の場合は言語を持ちませんので、細胞が細胞の外に分泌するマイクロRNAを利用して細胞同士の会話が成立している、ということが言えるんです。

奈央:
面白い、マイクロRNAを使ってコミュニケーションしてるんですね。

竹内:
具体的にはどういったコミュニケーションをしているのですか。

落谷:
実は母乳の中にもマイクロRNAがあることがわかっています。
母乳の中のマイクロRNAというのはすごく特徴的で、赤ちゃんの免疫細胞を成長させる。
つまり、赤ちゃんを外敵から守る、そういったマイクロRNAが母乳に仕込まれていて、それによって赤ちゃんはうまく成長できる、そういったことも分かっています。

奈央:
自分の体に影響があるというのはわかったんだけれど、お母さんのマイクロRNAが生まれてくる赤ちゃんにまで影響を及ぼすというのはすごいですね。

江崎:
さらにマイクロRNAは、私たちが気になる老化にもおおきく係わっていることが分かってきました。

次回に続きます。