マイクロRNAその2

NHKサイエンスゼロ  2015/2/22放送
「がんも!老化も!? 生命を操る マイクロRNA」

から
マイクロRNAその2を掲載します。

ナビケーター:南沢 奈央・竹内 薫
アナウンサー:江崎 史恵
国立がん研究センター研究所
分子細胞治療研究分野長
落谷 孝弘

 

VTR

細胞の老化や寿命を専門にしてきた
広島大学大学院 細胞分子生物学研究所
田原 栄俊 教授です。

田原さんは、老化にもマイクロRNAが関係しているのではないかと考え研究を進めました。
この研究で使ったのは、人の繊維芽細胞。
全身に存在する細長い細胞で、細胞分裂の回数に限界があることがわかっています。
分裂を1年ぐらい繰り返すと細胞がおおきく広がった形になってしまいます。
老化したのです。
見た目にもわかりやすいため老化研究でよく使われています。

田原さんは若い細胞と老化した細胞で含まれるマイクロRNAに違いがないか調べてみました。
まず培養した線維芽細胞に薬品を入れて溶かします。
マイクロRNAは透明な部分に溶けています。
この透明な部分の液体を分析しました。

線維芽細胞に含まれるマイクロRNAはおよそ1000種類。
若い細胞と老化した細胞でその量を比較しました。
その結果大きな違いが見つかったのがマイクロRNA22番です。
調べた線維芽細胞は3種類、若い細胞と老化した細胞ではこのマイクロRNA22番が2倍以上違っていたのです。

このマイクロRNA自体になにか機能はあるのか、田原さんたちは若い線維芽細胞に注入してみました。
これがマイクロRNAを入れる前、青く見えるのは細胞の核です。
3日経つと細胞はたるんだように広がり数も減っていました。
通常これほどの変化が起きるには100日ほどかかるといいます。
マイクロRNAのせいでたった3日で老化したのです。

田原:
我々の体の中ではある一定の細胞分裂をした後に止まるというプログラムがあります。
これは老化のプログラムというのですが、
それ以上増えてしまうとその細胞自身の機能が悪くなる、あるいは変な細胞になるということが起こりやすくなってしまいますので、
このマイクロRNA22いうのは非常に重要な機能をしているのだろと考えています。

STUDIO

奈央:
へー、マイクロRNAによって細胞があっという間に老化してしまうのが驚きでしたね。

竹内:
浦島太郎の玉手箱を開けてしまうような、あっという間でしたね。
逆に、若返るためのマイクロRNAはないんですか。

落谷:
おそらく、あると思います。
世界中の研究者が考えていると思いますが、残念ながら今ではまだわかっていません。

竹内:
でも、老化のプログラムも体にとっては重要なんですよね。

落谷:
そうですね、実際に我々が生きていますと、その細胞のゲノムには傷がついてしまいます。
そういった傷んだ細胞を排除するシステムとして老化というものがある。
ですから、そういったことができなくなると、とっても危険な状態なんですね。

奈央:
それって、癌細胞ということですか。

落谷:
まさに、その通りです。
実はマイクロRNAにおこる異常が癌と非常に強く結び付いているのです。

江崎:
そうしたですね、癌とかかわり深いマイクロRNAを見つけることで、癌の治療に応用しようという研究が行われています。

VTR

国立がん研究センター研究所
ゲノム生物学研究分野
ユニット長 土屋直人

土屋直人さんたちの研究グループは
癌の増殖を抑えるマイクロRNAを見つけました。

際限なく増殖する癌細胞、
増殖が制御できないのは多くの場合p53という遺伝子が壊れているからです。
細胞の異常な増殖を抑えるp53は、がん抑制遺伝子と呼ばれ、
癌研究では長く研 究されてきました。

そこで土屋さんたちはp53とともに活性化するマイクロRNAを探しました。
用意したのは大腸がんの細胞です。
ここに抗がん剤を加えます。
すると増殖を抑えるp53が活性化します。
そして抗がん剤を加える前後のマイクロRNAの量を測ります。
調べたのはおよそ170種類のマイクロRNA
その一部がこの表です。

増えたのは7種類、その中でp53と関係が深いとして注目したのがこの34aです。
これが34aの塩基配列、p53とともに増えたので、逆にこれを入れればp53が活性化し異常な増殖が抑えられるかもしれません。
土屋さんたちは、大腸がんの細胞に34aを加えて効果を見ました。
マイクロRNAを投与しないと大腸がんの細胞は急激に増殖します。
しかし入れた方はがんがほとんど増殖しませんでした。

マイクロRNAによってp53遺伝子が働き異常な増殖が抑えられたと考えられます。
生体内でも同じことが起こるのかマウスの背中に人の大腸がん細胞を移植しマイクロRNA34aの効果を見ました。
癌細胞を移植して14日目右側のマイクロRNAを投与しなかった癌は大きくなっています。
一方マイクロRNAを投与した癌はそれほど大きくなっていません。
生体内でもがんの増殖を抑える効果があることが確かめられたのです。

2007年土屋さんたちは論文として発表。
これがマイクロRNAが癌の治療に使える可能性を示した世界で最初のものでした。

国立がん研究センター研究所  ゲノム生物学研究分野
ユニット長 土屋直人:
分子標的治療薬とか抗がん剤とか抗体薬品とかいろいろ開発されていますがそれプラス核酸薬品のような、作用機序が異なった方法を開発する価値があると強く信じています。

STUDIO

奈央:
へえー、マイクロRNAでがんの治療までできる可能性があるんですね。

竹内:
それって、驚きですよね、
マイクロRNAはメッセンジャーRNAの働きを止めるんですよね
そうゆうことは、何かを止めるとp53遺伝子が働きだすっていうことですか。

落谷:
一つのタンパク質は別の多くのタンパク質によってコントロールされています。
でこのマイクロRNA43aの場合はおそらくp53を抑え込んでいるタンパク質を解除していると考えることができます。

竹内:
つまり邪魔者を働かなくするということですか。

落谷:
そーゆうことですね

奈央:
マイクロRNAって、体の外から薬のような形で体の中に入れるっていうのは大丈夫なんですか。

落谷:
マイクロRNAっていうの、、みなさんの体の中にもともとあるものですね、その増えたり減ったりしているものを、元に戻してあげる
ひょっとしたら、私たちにとって優しい治療になるのではないかと考えられています。
しかし、こういったマイクロRNAを標的に治療薬を開発するにはかなりの時間が要すると考えられています。
しかし先ほどお話に出た細胞の外に出るマイクロRNA、つまり我々の血液でがんに特異的なマイクロRNAを見つける、こういった新しいがんの診断これはもっと早く開発が進むと考えています。

奈央:
あ、番組の冒頭にちょっと出てきた血液一滴で診断できるっていうやつですか。

落谷:
そうですね。
実は癌になると、その癌に特有のマイクロRNAがその患者さんの血液中に出てきます。
これを利用して新しい診断が今進もうとしているんですね。

これはですね、縦軸にある患者さんのマイクロRNAの量を示しています。
健康な方ではこのマイクロRNAはほとんど見つかりません。
ところが癌になるととても増えるんですね。
そしてこの癌を例えば手術で取り去ったとします。
そうなると術後ある一定期間は必要ですけど正常のレベルに戻るんですね。
残念ながら、また再発をした場合は、また同じマイクロRNAが患者さんの血液中に出てくる。
つまり、血液中のマイクロRNAを見るだけで、その患者さんの中で癌がどういった振る舞いをしているか、これが手に取るようにわかる、そーいったことなのですね。

奈央:
ほんとに敏感に量が変わるんですね。

竹内:
現在でも血液中の腫瘍マーカーを調べて癌を調べたりしますけど、それとは違うんですか。

落谷:
腫瘍マーカーというのは優秀なものがたくさんあります、
実際に、腫瘍マーカーというものは癌が大きくなって、
癌細胞が死んでその結果患者さんの血液中に出で来る、そーいったものなのですね。
残念ながら癌が早期でゆっくり増えて細胞があまり死なない、そーいった状況ではなかなか見つけられないのですね。
ところが癌細胞、癌が小さいとき、初期でもおしゃべりをしていますね、
例えば血管内皮細胞にマイクロRNAを届けてそして血管を引っ込んでそこから別の遠隔地の臓器に転移していく、そうゆうこともしたり、
あるいは自分を攻撃しようとしてやってくる免疫細胞に、ある特定のマイクロRNAを送り込んで、その細胞をいわゆる撃退するそういったこともしてるんですね。
そういったおしゃべりの道具であるマイクロRNAを使えば新しい診断ができるという可能性があるということですね。

奈央:
癌細胞がマイクロRNAを使っておしゃべりをしてくれてるおかげで早期診断ができるということなんですね。

落谷:
そうなんですね、まさに我々人類が逆手にとって、今度はがん細胞に仕返しをしようってことなんですね。

竹内:
これは、実用化っていうのはいつごろになりそうですか。

落谷:
13種類のがんすべてがマイクロRNAで診断できるのは2020年ぐらい、
そういったところをめどにしています。
でも、すでにもう我々の基礎研究から乳がんを始めとしたいくつかの癌では、
こういった新しい診断が可能であるということが分かっていますので、
実現は少し早いかもしれませんね。

竹内:
今ですと大腸の内視鏡検査だったり、胃の内視鏡検査だったり、CTスキャンを取ったりだとか臓器ごとに癌を調べなければいけないじゃないですか、
それが血液一滴でいいというのはすごいですね。

江崎:
落谷さんどうも有難うございました。

それではサンエスゼロ次回もお楽しみに